2024年2月26日付意見書からの抜粋:
「私は医師としてのキャリアの中で,輸血医療に同意することを拒否する患者を数多く治療してきました。その大多数はエホバの証人でした。しかし,輸血を避けたいと考える,エホバの証人ではない患者が増えていることも見てきました。
エホバの証人の患者の手術を行う際に最も重要なことは,輸血を避けようとする外科医としての心構えと,そうするための外科的・医学的手技に関する知識だと思います。現在では患者血液管理と広く呼ばれているものです。エホバの証人の患者を治療して,患者は教科書で教えられているよりもかなり低いヘモグロビン値であっても問題なく耐えられることが分かりました(私が医学の道に入ったころの教科書は,ヘモグロビン値が 10g/dL まで下がったら輸血をするようにと勧めていました)。また,多くの場合,輸血なしで治療を受けた患者は,輸血による治療を受けた患者と同等かそれ以上の結果が 得られることも分かりました。
さらに,輸血なしで治療を行う場合のコストは,一般的に言って輸血による治療よりも高くありません。輸血を行わない治療の方が輸血を行う治療よりもかなり安くて済むという海外の研究結果もあります。例えば,世界保健機関(WHO)の 2021 年ポリシーブリーフ「患者血液管理を実施する緊急の必要性(The Urgent Need to Implement Patient Blood Management)」は,西オーストラリア州で行われた患者血液管理に関する大規模な研究で最大 1 億米ドルのコストが削減されたと報告しています(https:// www.who.int/publications/i/item/9789240035744,5 ページ)。
上で述べたように,多くの患者は,エホバの証人ではなくても,輸血を好まず,できれば避けたいと思っています。その要望に応えるのが医師の役目だと考えています。そのための方法として,出血を抑えるための低血圧麻酔や,回路をつないだ術中自己血輸血などがありますし,これからもさまざまな医療機器や薬剤が開発されることでしょう。今後の医学の進歩にもつながりますし,術中・術後など周術期管理における医師(特に外科医や麻酔科医)のキャリアアップにもつながるのではないかと考えています。
結論として,エホバの証人の患者を輸血なしで治療できたのは,とても良い経験でした。呉医療センターでは,医療スタッフとエホバの証人の患者は良い関係にあり,お互いに協力していました。医師を含む医療スタッフは患者の意思や意向に対して先入観を抱かず,手術前に個々の患者としっかりと話し合ったので,血液分画や自己血の使用について双方がよく理解できていたと思います。外科医としてのこのような経験のおかげで,すべての患者に対して輸血の使用を避けたり最小限に抑えたりするための外科的・内科的手技に熟達することができました」。(原文は日本語)