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信者としての立場に関する決定

エホバの証人は幼児洗礼を行いません。バプテスマを受けることを希望する人(エホバの証人の家庭で育った成人または成熟した青少年)は,まず聖書を深く学び,週2回行われるエホバの証人の礼拝に出席し,伝道活動に参加する必要があります。バプテスマを希望する人がこうしたことを行い,学んだことを確信してそれを自分の生活で実践している場合にのみ,バプテスマを受けることができます。

エホバの証人は,姦淫,アルコールや薬物の乱用,家庭内暴力やその他の暴力,窃盗などを重大な罪と考えています。バプテスマを受けた信者が重大な罪を犯した場合,長老たちは聖書に基づくサポートを提供するよう努めます。罪を犯した人がその行動を改めない場合,長老たちはその人をエホバの証人の中から排斥(除名)することを決定するかもしれません。その場合,長老たちは罪を犯した人が所属していた地元の会衆で「[その人の氏名]さんはエホバの証人ではなくなりました」という短い発表を行います。その他の詳細が述べられることや,他の会衆で発表されることはありません。バプテスマを受けた信者が信仰を捨てることを決意し,エホバの証人として知られることを望まないという意思を明確に表明した場合(断絶)にも同様の手順が取られます。

発表を聞いた各信者は,自分の良心と状況に基づいて「接するのをやめなさい」1 という聖書の命令を考慮し,排斥者もしくは断絶した人との接触をやめるか,控えるかどうかを決定します。(裁判所はこの信条を「受動的な」社会的排除と表現しています。)

排斥された(または断絶した)人は,エホバの証人の礼拝に出席し,礼拝で賛美歌を一緒に歌い,宗教的な出版物を受け取ることや,長老から聖書に基づくサポートを受けることができます。その人が生活習慣や態度を改めた場合は,エホバの証人として復帰することが可能です。

「宗教的な結びつきは変わりますが,家族としてのきずなは変わりません。結婚関係,家族の愛情やかかわりは続きます。排斥された人もわたしたちの集会に出席できます。……会衆の長老から聖書に基づく助言をもらうこともできます」。

エホバの証人の公式ウェブサイト,WWW.JW.ORG

言い換えれば,排斥されたり断絶したりした人は,信者から憎まれることはありません。むしろ聖書は,その人が会衆に復帰した時,自分が愛されていることを「確信」2 できるように振る舞うよう,信者たちに勧めています。肉親の間で,社会的関係に変化はありません。エホバの証人の公式ウェブサイトは次のように説明しています。3

「宗教的な結びつきは変わりますが,家族としてのきずなは変わりません。結婚関係,家族の愛情やかかわりは続きます。排斥された人もわたしたちの集会に出席できます。望むなら,会衆の長老から聖書に基づく助言をもらうこともできます」。

上記の宗教的な理由に加え,友人や家族は,排斥者によって家族に生じた精神的苦痛や苦難を考慮し,その人との接触を制限するまたは絶つことにする場合もあります。例えば,夫が妻子を捨てた場合や,アルコールや薬物に依存して家族の貯金を浪費した場合などです。

「多くの宗教では,信者が生活の中で従うべき行動基準が定められている。……エホバの証人の……規制は,他の宗教が信者の私生活に課している同様の制限と変わりない」。

ヨーロッパ人権裁判所,「タガンログ LRO ほか 対 ロシア」 (2022年)

信者はいつでも,各自の宗教的良心に基づいてその人との関わり方を判断します。この点は,「日本のエホバの証人 定量的研究」の結果 からも確認できます。調査参加者は高い割合で,他の人を進んで助けたいという意志を示しました。そして,エホバの証人をやめた人に対しても,同様の意志を示しています。

排斥と「関係を断つ」ことに関するエホバの証人の宗教的信条は,信教の自由によって保護されていることが国内の裁判所および国際裁判所の判決によって十分に立証されています。

宗教団体が宗教的ルールを定め,信者がそのルールに従う権利について,ヨーロッパ人権裁判所は「タガンログLROほか 対 ロシア」で判決を下しました。4

「……多くの宗教では,信者が生活の中で従うべき行動基準が定められている。それには,教会の礼拝への出席,儀式の遂行,特定の衣服の着用,食事制限の遵守などが含まれる。エホバの証人の戸別伝道や集会への出席に関する規制は,他の宗教が信者の私生活に課している同様の制限と変わりない」。

「……そもそも,宗教を奉じる人は,宗教上の規定に従い,自らの意志でかなりの時間を宗教活動に費やすものである。とはいえ,エホバの証人の信者が他者から強要されたわけでなく,自らの自由意志で宗教活動に専念しているのであれば,それを快く思わない家族の成員と不和が生じても,その宗教によって家庭が崩壊したとはいえない。信仰心のある家族が自分の宗教を表明し実践する自由を,信仰心のない家族の成員が容認・尊重しようとせずに反対したことが,争いの原因である場合が少なくない。夫婦の宗教が異なる場合や,一方が無宗教である場合,夫婦間に摩擦が生じる場合が多いのは事実である。しかし,これはエホバの証人に限った問題ではない」。

ヨーロッパ人権裁判所は,Fernández Martínez v. Spain で判決を下しました。5

「……[信教の自由]は,宗教団体の中で反対意見を述べる権利を認めるものではない。宗教団体とその構成員の間で教義上または組織上の意見の相違がある場合,個人の信教の自由は,自由に共同体を離れるという選択肢によって行使される。……国家によって承認された宗教団体の自治を尊重することは,特に,団体の結束,イメージ,団結を脅かす可能性のある反対運動に対して,その団体が自らの規則と利益に従って対応する権利を国家が受け入れることを意味する。……

……さらに,宗教的自治の原則は,国家が宗教団体に対し,ある個人の入信や排斥,あるいは特定の宗教的義務を誰かに委託することを義務付けることを妨げるものである」。

ゲント控訴裁判所(ベルギー)は,エホバの証人が宗教上の理由で「関係を断つ」ことについて次のように述べました 6

「……本質的に非難されているのは,受動的な社会的排除についてである。……除名された人との関係を断つというエホバの証人の指針は,主にエホバの証人の共同体の他のメンバーからの社会的孤立を生じさせるだけであり,一般的な社会的孤立は生じさせない。……[提出された]証拠は,その関係を断つという指針が,エホバの証人の元メンバーへの積極的な接近,つきまとい,脅迫,いじめを目的としていることを実証していない。エホバの証人との関係を断たれることにより,対象となる第三者(非信者や元信者)が不当に扱われたまたは傷つけられたと当然感じるであろうことや,元の友人の輪から社会的に切り離されたと感じるかもしれないという要素は,[宗教団体の信教の自由に対する権利]の行使を無効にするには十分ではない」。

日本の裁判所も同じ結論を下しました。

  • 新潟地裁令和2年4月9日判決,平成30年(ワ)71号は,宗教上の立場を喪失させる処分は裁判所の審査対象とはならないことを確認しました。(同様の結論を述べた佐賀地裁武雄支部平成31年11月8日判決,平成31年[ワ]32号も参照)

まとめると,日本および国際的な判例によれば,宗教団体が宗教的行為の規則を定め,その規則に従わない者を除名する権利を有することは間違いありません。7

1. 聖書: コリント第一 5:11-13
2. 聖書: コリント第二 2:6-8
3. 「エホバの証人ではなくなった人を避けますか」,www.jw.org
4. ECHR, Taganrog LRO and Others v. Russia, no. 302/02, §§ 172, 178.
5. ECHR, Fernández Martínez v. Spain [GC], no. 56030/07, §§ 128-129, ECHR 2014(抜粋); Sindicatul “Păstorul cel Bun” v. Romania
[GC], no. 2330/09, §§ 136-137, ECHR 2013(抜粋)も参照。
6. ゲント控訴裁判所, case no. C/797/2022, June 7, 2022,2.9.3,2.12.3,2.12.4節。2023年12月19日, no. P.22.0971Nにおいて,ベルギー最高裁判所はゲント控訴裁判所の判決を支持した。
7. 議論については,イントロヴィーニュ教授とフォーク教授の意見書,5.56-5.64節を参照。